こんなカフェが近くに欲しい

本の紹介
今宵も喫茶ドードーのキッチンで。
著者 標野 凪
出版社 双葉文庫

こんな人にオススメ

  • 穏やかな物語が読みたい
  • 隠れ家的なカフェの空気を味わいたい
  • 心温まる食べものと言葉に触れたい

本のご紹介

物語の冒頭。

幸せについて問われます。

たくさんのお金。憧れの仕事。おしゃれな服。

どれも素敵だけど。

でもぼくにとってはそんなことどうだっていいんだ。

空腹がある程度満たされるだけの食べものと、

スーツケース一個分の荷物。

あとは穏やかな時が過ごせること。

それがぼくのとびきり贅沢な幸せのかたちなんだ。

街の奥にひっそりと佇む小さなカフェの物語。

ありふれた住宅地だけど、うっそうとした木々に囲まれて

都会の喧騒から少しだけ遮断された立地。

三十代後半から四十代前半の寝ぐせのようなもじゃもじゃ頭に黒ぶちの丸眼鏡をかけた

「そろり」と名乗る男性店主。

頑張っている日常からちょっとばかり逃げ込みたくなるおひとりさま専用のカフェ。

それが、喫茶ドードー。

 

命に関わるような重大な悩みではないかもしれないけれど

夜中に一人で泣きたくなるような、途方にくれるような悩みに

いつだって私たちは押しつぶされそうになっている。

スマホから流れてくる「素敵」の押し売りに溺れてしまう。

好きな人だからこそ、価値観のズレが許せない。許せない自分も許せない。

人手不足からの疲れからくる体調不良。でも頑張れる人が自分しかいないしんどさ。

コロナ禍の感染対策や接客業の気疲れ。

人生の悩みと評するには取るに足らないことかもしれない。

もっと深刻な悩みを抱えている人は世の中にきっとたくさんいる。

そんな程度で悩むなんて甘えだ。

でも、この程度で傷ついてはいけないと思う度に、傷口はどんどん広がっていく。

そんな時に自分を癒してくれるカフェがあればどんなに素敵だろう。

カフェの店主は答えは教えない。答えは人それぞれ違うから。その人にだけしか分からないから。

でも、心温まる食べものと一緒に、前を向くきっかけをくれる。

そんな素敵な店主のいるカフェを、誰もが一度は夢見るのではないだろうか。

 

でも、カフェの店主も当たり前の人だ。

物語の終盤、店主のそろりが何故喫茶店を開いているのか。

そのさわりが少しだけ書かれている。

ある日突然、自分自身が干からびていくような恐怖に襲われ、会社に行けなくなった。

立ち止まって、望んでいた暇な時間を手に入れたが、何をどう使えば分からない。

疲れや悩みはなくなるどころか、余った分だけ積もった。

喫茶店を始めた経緯すべてが書かれているわけではないが

悩んでいるお客様を癒す店主そろりも、途方に暮れてしまった一人だ。

彼がどうやって自分にとっての幸せと向き合って、喫茶店を経営しているかは分からない。

ただ、訪れるお客様へかける言葉の端々から、自分なりの答えを出してきたのだろうと伺える。

 

隠れ家的なカフェの空気を味わいながら、自分自身の幸せとは何なのか向き合ってみたい。

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